生成AIを連想させる物語でした。このブログでもチャットGPTを活用していますが、江戸時代にそれを人が担うとこうなる、という印象。興味深く、楽しめました。
概要
• 出版社:実業之日本社
• 発売日:2024年12月6日
• ISBN:978-4-408-55923-0
背景
この本はX(旧Twitter)で花房観音さんの投稿を見て気になり、Kindleで購入しました。花房さんはKBS京都のラジオ番組「蛤御門のヘン」にも出演され、切れ味鋭い下ネタで笑わせてくださる作家です。今回はその要素が控えめでしたが、期待以上に楽しませていただきました。
内容メモ
『恋文の宿』は京都伏見を舞台にした連作形式の物語。独立した各章が緩やかに繋がり、全体で大きな満足感を与えてくれる一冊です。
この作品は伏見特有の「人と場所の交わり」を生き生きと描き、土地の歴史や文化が随所に織り込まれています。伏見人形をめぐるエピソードや、過去と現在が交錯する物語には特に感動しました。伝統と新しさが巧みに絡み合い、読み手を伏見の町へと引き込んでくれる作品です。
感想
全体の印象
短編集か長編かも知らずに読み始めましたが、2章で「短編をつなぐ長編だ」と気づき、その瞬間から一気に読み切りました。水戸黄門や遠山の金さん的な安心感がありつつ、予想外の展開が続きます。軽く読める一冊で、手に取りやすく誰にでも薦められます。
伏見区を舞台にしている点も新鮮で、改めて伏見の歴史や文化を知りたくなりました。「交通の要衝」としての伏見のリアリティが物語に説得力を与えています。
江戸時代の生成AI
江戸時代の生成AIとも言える「懸想文売りのお琴さん」。男装して依頼人の断片的な要望を聞き、一発で心を掴む文(ふみ)に仕上げる名人芸が光ります。生成AIのように反復や修正は不要で、依頼人との直接的なやり取りや洞察力が鍵となる仕事ぶりには感動しました。このブログで使っているチャットGPTと似た点もありつつ、AIにはない「一発完成の魅力」が際立っています。
良かった点
• 各話に新鮮な驚きがあり、最後まで飽きずに読めました。
• 伏見人形のエピソードは特に印象的でした。学生時代に陶芸を学びながら伏見人形の工房で働きたいと考えた記憶が蘇り、感動が倍増しました。
• 軽快な文体で読みやすく、赤川次郎さんの作品のような親しみやすさを感じました。
気になった点
佐助さんの能力が万能すぎる点がやや気になりました。長距離移動、人探し、交渉、説得など、どれも一流の働きで、まるで有能なAIのようです。一方で人間らしい描写も多く、むしろ超人的な経歴があれば説得力が増したかもしれません。ただし、些細な点であり、全体の魅力を損ねるものではありません。
結び
非常に面白く、読みやすい一冊でした。花房観音さんの作品ながら、下ネタ控えめで誰にでも薦められる内容です。伏見の知人にもぜひ紹介したいと思います。